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最高裁判所第一小法廷 昭和22年(れ)121号 判決

主文

本件各上告を棄却する。

理由

辯護人星宮克己上告趣意第一點「本件記録を閲覧致しますと第一〇〇〇丁より第一二〇二丁に至るまで書類の毎葉左肩に記入せられました丁數を示した文字を全部抹消加筆をし、そのうち第一一六七丁第一一六八丁及第一一六九丁の各丁數を示した文字は文字の上に他の文字を重ねて記載し、第一二三三丁の丁數を示した文字記載の書類を缺き又第一三二三丁より第一三三一丁に至るまでは毎葉の丁數を示す文字を缺いてゐるのであります。刑事訴訟法は訴訟に關する書類を作成するのに丁數を示す文字の記載に付ては何等明定せず、又之に關しての他の法令の規定もありませんが、併し丁數記載は單に記録の整理閲覧に便宜を與うるばかりでなく、一件記録に連綴せられた紙葉の脱落散佚を防ぎ書類保存の確実を期したものでありますから、この丁數記載は訴訟記録に於て極めて重要なものであり、この記入も愼重に致すべきものであります。刑事訴訟法第七十一條第二項には「書類ニハ毎葉ニ契印スヘシ」と定めてをりますが、この書類は作成名義、作成時日、作成目的及事由等を一にした文書とその附屬書類で獨立して存在し得るものであって、その書類の毎葉には契印を致しますが、之が訴訟記録として編綴せられる場合には連續して綴られる一の書類と他の書類との間には契印をすることがないのでありますから、これには記録の重要性より申し丁數を明記するのが至當であり、その丁數を示す文字も亦刑事訴訟法第七十二條に規定する官吏又は公吏の作る書類の文字と解するのが適當と思うのであります。又前掲の如く記録第一二三三丁の丁數を示す文字記載の書類を缺き、第一三二三丁より第一三三一丁に至るまでは毎葉の丁數を示す文字を缺いてゐるのでありまして之は該丁數の紙葉の脱落散佚を疑うに足り、且書類の正當に編綴せられたか否かをも疑うに足る十分の理由となると思うのであります。即ち本件記録はその連綴する書類の紙葉の丁數を示した文字を改竄し、挿入削除をした文字に付て作成者認印して字數を記載しない違法があり又丁數連續を缺き記録に編綴せられてある書類の確実性を具備しないものでありまして、結局原判決は事実の確定に影響を及ぼすべき書類作成の法令に違反したか又は右のように不確実な書類を根底とした訴訟記録に依據してなされたものでありますから、之を重大なる事実の誤認あることを疑うに足りる顕著なる事由があると申すべきで當然破毀せらるべきものと思うのであります。」というにある。

よって、記録をよく調べてみると、まさに辯護人のいう通り、記録丁數の記載には所論のような瑕疵がある。訴訟記録の丁數は、常に正確に整然と記載されていることが、望ましく且大切である。しかし、これは記録整理上の問題たるに過ぎない。所論のような瑕疵があっても、刑事訴訟法の書類作成の規定に反するともいえないし、又假にこの點について法令の違反があるとしても、本件においては原審判決に影響を及ぼしていないことが明白であると認められるから、上告の理由とすることはできない(刑事訴訟法第四百十一條)。次に辯護人は所論の瑕疵をもって刑事訴訟法第四百十四條にいわゆる「重大なる事実の誤認あることを疑うに足るべき顕著なる事由あるとき」に該當するものと主張するが、同規定は「日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の應急的措置に關する法律」第十三條第二項によって適用せられないことになったから、これを上告の理由とすることはできない。

同第二點は、「原審は「訴訟費用は全部右被告人四名及原審相被告人石田進、川口佐駒、島口一男、柿本泰春、木村茂の連帶負擔とする」旨の判決をせられたのでありますが、右相被告人石田進外四名に對する第一審判決は既に確定し同相被告人等に對する訴訟費用の負擔に付ても亦同樣確定してゐるのであります。刑事訴訟法第二百三十八條に規定する「共犯の訴訟費用は共犯人をして連帶して之を負擔せしむることを得」とありますのは共犯人が共犯關係にあるという刑法上の共同責任に基くというよりも寧ろ共同被告人となって同一訴訟手續によって審判せられる場合に訴訟上の行爲や費用も共通し之を共同被告人に連帶して責任を有たしめることが多くの場合適當であるとして定められたものであって、費用の連帶負擔の當否を裁判所の裁量に任せたのもこの故であります。これは刑事訴訟費用法第七條に「共犯人をして訴訟費用を負擔せしむる」場合は連帶負擔とする旨規定せられたものを改めたことから申しても明瞭でありまして、共犯人が費用負擔の場合必ず連帶責任であるということはないのであります。即ち第一審相被告人石田進外四人の訴訟手續は第一審判決確定と共に被告人福永久夫外三名の訴訟手續より分離して終了し、その訴訟費用負擔の連帶責任もその費用額も亦確定したのでありまして訴訟費用の負擔及費用額だけが未確定のまま控訴審に繋屬するというわけはないのであります。若し原審がこの訴訟費用の負擔に付ては未確定のものとして判決したとすれば明かに違法であり又第一審相被告人石田進等が控訴を爲した被告人福永久夫外三名と共に控訴審の費用をも負擔せしむる爲め連帶責任を負はしめたものとすると甚だ奇怪な判示といはなければなりません。何となれば右石田進等は第一審判決までの訴訟費用は全部連帶負擔をしているのでありますから又更に被告人久夫外三名と共に全部の訴訟費用を負擔することになりますと第一審判決までの訴訟費用は重複して負擔せねばならないという結果になるからであります。原審判決はこのように共犯人の訴訟費用負擔に付て法令に違背して爲されたものであり破毀を免れないのであります。」というにある。

しかし、記録を調べてみると、本件における実際の訴訟費用は、豫審におけるものだけであって、第一審及び第二審においては別段訴訟費用がかかっていない。それ故、原判決が訴訟費用については、第一審の判決のとおり被告人四名及び第一審相被告人等の連帶負擔としたことは何等の違法がなく論旨は理由がない。

同第三點は、「第一審判決は、被告人福永久夫に對して三年以上五年以下の不定期懲役刑を科しましたが原審は同被告人に對し懲役五年の判決を言渡しました。これは第一審に於ては同被告人を少年法に基いて少年として審判致したのでありますが、原審は檢事の附帶控訴の申立を容認し、被告人福永が少年法の少年ではなくなったものと認めた結果に外ならないのであります。而してこの原審の判斷は少年法第一條に「本法ニ於テ少年ト稱スルハ十八歳ニ滿タサル者ヲ謂フ」とあるのに依據し滿十八歳に達したものは同法に謂う少年には該當しないものとの極めて單純な形式的な見解に基くものと思うのであります。今この少年法の適用を受ける少年の解釋に付て法律的根據を探して見ますならば即ち同法第七條には「罪ヲ犯ス時十六歳ニ滿タサル者ニハ死刑及無期刑ヲ科セス」とありますから、この法意を酌めば起訴時も最終判決時も年齡を問はないで犯行當時の年齡に基礎を置くものと解せられ又第十四條には特に「少年ノ時犯シタル罪云々」とありまして之亦判決時の年齡ではなく犯罪行爲の時に於ける少年を指してゐるものであります。そして何れも滿十八歳以上に達した者にも適用せらるる法條に疑ないのでありますから少年法は少年の時犯したる罪ある場合にその少年に對して適用せられるものと解すべく尠くとも起訴當時に少年であるものが審理中の時の經過により年齡加算せられても少年法適用より除外せらるることがないものと解釋せられるのであります。若しも少年の解釋を原審の採られたる見解に置くものと致しますと訴訟繋屬中に於て滿十八歳に達すれば少年法適用より除外せられますので時の經過による不利益なる結果を虞れて判決の速かならんことのみ希う結果十分なる審理を盡さないこともあり得ますし、又理由がありましても上訴を斷念せざるを得ないことになりませう。このようなことは公正な裁判を望み得なくなり又被告人より訴訟上の權利を奪い或は制限することになり憲法により保障せられた国民の基本的權利をも侵害する重大なる結果を招來するものであります。すなわち原審判決は少年法の解釋を誤りその誤った解釋に據って判決をしたか或は又よく審理を盡さないで判決をしたかの違法があるものであります。」というにある。

よって、記録を調べてみると、被告人福永久夫は、犯行當時滿十七歳四箇月で、少年法第一條の「少年」に該當するものであったことは明かである。又同法第七條及び第十四條の規定が、犯罪時の年齡を標準としていることは、所論のとおりであって、法文自體に徴し明白である。しかし、同法第八條の少年は、判決言渡の時の年齡を標準とすることは、これまた法文自體によって明かに認められるところである。從って、原判決がその言渡當時少年法にいわゆる少年でなかった被告人福永久夫に對して、少年法第八條第一項の規定を適用しなかったのは、當然であって少年法の解釋を誤った違法はどこにも存在しない。犯罪當時少年であった者が、審理の途中で少年の年齡を超え、判決言渡の時に少年法の適用をうけなくなるからといって、その者が犯罪當時少年であったことは審判において斟酌せらるべき筈であるから、必ずしも辯護人の主張するような不都合を生ずるとはいえない。それ故審理を盡さない違法があるという辯護人の主張は採用ができない。されば、この點においては、上告の理由はない。

同第四點「被告人福永久夫は第一審の判決に不服で原審に控訴をしたのでありますが第一審判決が、少年法を適用し同人に對して短期三年長期五年の不定期懲役刑を言渡したのに對して控訴審は懲役刑五年を言渡しました。併しこの原審判決は第一審判決に比較しまして明かに重刑でありまして同被告人にとっては甚しく不利益な判決であります。これは「被告人控訴ヲ爲シタル事件及被告人ノ爲ニ控訴ヲ爲シタル事件ニ付テハ原判決ノ刑ヨリ重キ刑ヲ言渡スコトヲ得ス」とある刑事訴訟法第四百三條の規定に悖るものであり法律違背を疑う餘地がありません。尤も原審に於て檢事の附帶控訴がありましたがこれは原審公判調書に明記せられてありますように少年法の適用に付てでありまして、被告人が少年法に謂う少年でないから少年法の適用なく、從って、同法に依って不定期刑を科することが適當でないというのであり、第一審の刑の量定に對しての不服ではないのであります。一體不定期刑は少年犯罪者に對する特別の刑罰であり、その本質は應報贖罪よりは寧ろ、犯罪者の智力、體力、精神力等の未熟を保護育成し且將來の犯罪防遏の目的に出たものであり保護訓育を主とするためその成果によっては身體拘束の期間は極めて短期となるものであります。少年法第十條假出獄の規定がそれでありまして短期を定めた懲役刑に於きましてはその三分の一の期間經過により假出獄を許され得るのであり、若しも被告人福永が第一審判決に服從致したならば一年の期間により假出獄が出來るわけであります。又同法第十一條、第十四條も少年犯罪者に對して特別の温情を示して居るのでありまして、被告人福永が控訴によって却て第一審より不利益な重刑を科せられたことは明白な事実であります。これが即ち原審判決が刑事訴訟法第四百三條に背反した違法のものであると判斷する所以であります。」というにある。

しかし、刑事訴訟法第四百三條によって控訴審が原判決の刑より重い刑を言渡すことができないのは、被告人が控訴をした事件及び被告人のために控訴をした事件に限られるのである。本件のように檢事が附帶控訴をした場合においては、控訴の理由が少年法の適用についてであろうと又は第一審の刑の量定に對してであろうとに拘わらず、第一審の刑より重い刑を言渡すことができる。從って、原判決は、刑事訴訟法第四百三條に違反した違法はなく、上告は理由がない。

よって刑事訴訟法第四百四十六條に則り主文の通り判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 真野毅 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 岩松三郎)

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